はじめに
ヘボコンとは、技術力の低い人のためのロボット相撲大会です。まともに動かない、できの悪いロボットばかりが集まり、おぼつかない足取りでなんとか戦います。私が知る限り世界で唯一の、ロボットを作る技術を持たない人が表彰されるロボットコンテストです。
ヘボコンは2014年に、ヘボコンマスター・石川大樹が企画し、7月19日に日本の東京で第1回を開催しました。その年の文化庁メディア芸術祭の審査員推薦作品に選ばれたのをきっかけに各国のメディアに取り上げられ、いま世界中に広がろうとしています。
ヘボコンの「ヘボ」は、日本語の「ヘボい」からきています。
「ヘボい」
技術的に稚拙であったり、出来が悪いことを表す日本語が「ヘボい」です。「ヘボい」を楽しむことが、ヘボコンの目的です。
ヘボコンには二つの「ヘボい」があります。
ひとつめ、ヘボいロボット
ヘボいロボットはまともに動かなかったり、ちょっとした衝撃で壊れたりします。前進ひとつスムーズにはできません。
これらのロボットは工学的には価値がありませんが、よくできたロボットにはない魅力を秘めています。
たとえば、あなたの目の前で、1歳になったばかりの赤ちゃんがおぼつかない足取りでよちよち歩きをしているとします。あなたはその姿に深い愛情を感じるのではないでしょうか。
ヘボいロボットも同じです。まともに機能しないパーツを使って何とか戦おうとするロボットたち。その姿はとても愛らしいでしょう。
また、ヘボいロボットは、すぐトラブルを起こします。赤ちゃんは歩くのに失敗しても腕が外れたりしませんが、ヘボいロボットはすぐ腕が外れます。タイヤは加速しすぎて機体が場外に飛び出しますし、モーターはすぐに動かなくなります。こうしたハプニングの数々が、ヘボコンをよりエキサイティングなものにしてくれます。
ふたつめ、ヘボい制作者
なぜヘボいロボットができるのか。それは制作者の技術がヘボいからです。
技術力の低い製作者は自分の力量をわきまえていません。最初は機能満載のすごいロボットを考え、作り始めます。まもなく自分の力量では実現不可能なことに気づき、妥協してシンプルなロボットに変更します。しかしシンプルなロボットも完成できず、さらに妥協して最終的に仕上がるのが、さきほどご説明したヘボいロボットです。
他にもヘボい製作者は、途中で面倒くさくなって雑に作業をしたり、作った機能を一回もテストしなかったり、作りかけの機能を途中でやめたり、場合によっては出場をあきらめたりもします。しかし、それでいいのです。それでこそのヘボコンです。
出場ロボットをよく見ると、そんな、人間の弱い部分が透けて見えます。これもヘボコンの面白さです。ヘボコンのロボットを見ると、まるで私小説を読んでいるようです。私はいつもこう言っています。「ヘボコンは工学ではなく文学」であると。
技術がないのにロボットが作れるの?
もちろんです。おもちゃ屋にいって動く犬のおもちゃを買ってきて、外装をはいでボール紙を貼り付けましょう。これであなただけのロボットが完成します。丸材を削って角をつけましょう。戦闘力がぐんとアップします。もっと工夫して、モーターを使って動く武器をつけてもいいでしょう。うまくいかなかった?OK、それが「ヘボ」です。うまく動かないロボットを持って、大会にエントリーしましょう!
日本では、タミヤというおもちゃメーカーが、モーターで動く簡単な工作キットを発売しています(http://www.tamiya.com/japan/robocon/index.html)。あなたの国にも似たような製品がありますか?こういった製品は容易に改造できるので、ロボットの素材にうってつけです。あなたが改造することでキットはよけいに動かなくなるかもしれませんが、OK、それが「ヘボ」です。うまく動かないことを楽しみましょう!
万人のためのヘボコン
ヘボコンは「技術力の低い人のためのロボット相撲大会」ですが、あなたがもし優秀な技術者であったとしても、がっかりする必要はありません。
自分の得意分野の技術や知識をすべて忘れ、やったことのない方法だけを使えば、あなたは初心者になりきってヘボコンに参加することができます。Arduinoでサーボモーターを制御する方法はもちろん、半田ごての使い方や、電圧と電流の違いなど、すべて忘れましょう。自分が8歳の頃に戻ったつもりで、ロボットを作りましょう。「いかに技術を使わないか」に集中して、いちども見たこともきいたこともない突飛なアイデアだけを試してください。それがうまくいかなければ、あなたはヘボコンの出場資格があります。決して完璧にうまくいくまで試行錯誤しないでください。技術が洗練されてしまったら、それは「ヘボ」ではなくなってしまいますから。
ヘボコンの心得
おわりに
以上がヘボコンのエッセンスです。最後に、ひとこと。ヘボコンはシリアスなトーナメントではなく、私がふざけて始めた遊びです。勝ち負けにこだわらず、楽しんでいきましょう!
文:ヘボコンマスター 石川 大樹
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